コーポレートアイデンティティを反映した庭園デザインの作り方

監修者:Japanese Garden TV

日本庭園専門メディア「Japanese Garden TV」を運営。国内外の庭園取材や施工現場での知見をもとに、日本庭園の設計・施工・維持管理について分かりやすく解説しています。庭師や造園会社への取材ネットワークを活かし、実務に即した情報をお届けします。

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企業の庭園は、経営理念やコーポレートアイデンティティ(CI)を空間として体現する重要な資産になり得ます。しかし、デザイン担当者や造園会社に丸投げしてしまうと、単に「立派な庭」ができるだけで、自社らしさが反映されないまま完成してしまうことも少なくありません。本記事では、CIを庭園デザインに落とし込むための実務的な手順を解説します。

経営理念・CIをデザイン要件に翻訳する作業から始める

経営理念・CIをデザイン要件に翻訳する作業から始める

庭園デザインにCIを反映させる最初のステップは、経営理念やCIステートメントを抽象的な言葉のまま造園会社に伝えるのではなく、具体的なデザイン要件に翻訳する作業です。例えば「共生」を理念に掲げる企業であれば、在来種の植栽を中心に据える、周辺の生態系と調和する水景を設ける、といった具体的な方向性に落とし込めます。「挑戦」や「革新」を掲げる企業であれば、伝統的な庭園様式に現代的な素材(ガラス、金属、コンクリート)を組み合わせる手法が候補になります。この翻訳作業は、総務部門だけで完結させず、広報・ブランディング部門やCI策定に関わった経営企画部門を巻き込み、キーワードごとにデザイン要素の候補を出し合うワークショップ形式で進めると精度が上がります。翻訳した要件は一枚のブリーフ(設計与件書)にまとめ、造園会社に提示する前段階の社内資料として残しておくと、複数社への提案依頼(相見積もり)の際にも一貫した基準で比較検討できます。

コーポレートカラーと植栽・素材選定の関係を設計する

コーポレートカラーと植栽・素材選定の関係を設計する

コーポレートカラーを庭園にそのまま使うことは難しいものの、植栽の葉色や花色、石材・砂利の色味、建材のトーンを通じて間接的に反映させることは可能です。例えば深緑を基調とするロゴであれば針葉樹や常緑樹を中心とした植栽構成で親和性を出せますし、暖色系のロゴであれば紅葉樹や季節の花を効果的に配置する方法があります。ただし、季節ごとに植物の色は変化するため、一年を通じてコーポレートカラーとの調和を保つのは容易ではありません。造園会社に相談する際は、四季それぞれの植栽計画図(春夏秋冬でどのような色味・表情になるか)を提示してもらい、通年でイメージが崩れないかを確認することが重要です。また、石材や敷石、フェンスなどのハードスケープ部分は色が年間を通じて変わらないため、コーポレートカラーとの整合性を取りやすい要素です。植栽という変動要素とハードスケープという固定要素をどう組み合わせるかを整理しておくと、デザイン会議での議論が具体的になります。

ブランドストーリーを庭園の動線・シーンに落とし込む

ブランドストーリーを庭園の動線・シーンに落とし込む

単に色や様式を合わせるだけでなく、企業の沿革やブランドストーリーを庭園の体験そのものに組み込む手法も効果的です。例えば創業の地にちなんだ石材を使用する、周年事業として記念植樹を行う、事業の変遷を象徴する複数のゾーンを庭園内に設ける、といった工夫が考えられます。来訪者がエントランスから応接室に向かうまでの動線上に、こうしたストーリー性のある要素を段階的に配置することで、庭園そのものが無言のプレゼンテーション資料として機能します。この設計を行う際は、実際に来訪者が歩くルートを想定した動線図を作成し、どの地点でどのストーリー要素が目に入るかをシミュレーションしておくことが有効です。デザイン会社によってはストーリーテリングを得意とする会社とそうでない会社があるため、過去の実績で企業理念を反映した庭園デザインの事例があるかどうかを、発注前の選定基準の一つに加えることをおすすめします。

社内デザインガイドラインとの整合性チェック体制を作る

社内デザインガイドラインとの整合性チェック体制を作る

CIを庭園に反映させる取り組みは、一度きりのプロジェクトで終わらせず、社内のデザインガイドラインの一部として位置づけておくことが望ましいです。オフィスデザインやサインシステム、Webサイトのトーン&マナーと同様に、庭園デザインについても「使ってよい色域」「避けるべき意匠」などの簡易的な指針を文書化しておくと、将来的な増設・改修時や、複数拠点を持つ企業が支社にも同様の庭園を展開する際に一貫性を保ちやすくなります。指針の作成にあたっては、ブランディング部門が単独で決めるのではなく、実際に庭園の維持管理を担う施設管理部門の意見も取り入れ、現実的に運用可能な内容にすることが重要です。造園会社やデザイン会社との打ち合わせでは、この指針を最初に共有することで、毎回ゼロからCIの説明をする手間を省くことができ、提案の精度も安定します。

発注先選定とプロジェクト推進体制の整え方

発注先選定とプロジェクト推進体制の整え方

CIを反映した庭園デザインは、一般的な造園工事以上に企業側とデザイン・施工側の対話量が求められます。そのため発注先を選ぶ際は、施工技術だけでなく、企業のブランディング文脈を理解し、対話しながら形にしていく姿勢を持った庭師・造園会社を選ぶことが成功の鍵になります。社内に適切な相談先がない場合、ZenGardenのように法人の要望を整理したうえで、複数の庭師・造園会社とマッチングを行うプロデュース型のサービスを利用し、中立的な立場で複数の提案を比較検討する方法も有効です。プロジェクト推進にあたっては、総務・施設管理部門を事務局としつつ、ブランディング担当者、経営層、必要に応じて外部デザイナーを含めた小規模なプロジェクトチームを組成し、定例会議で進捗とデザインの方向性を確認していく体制を整えることをおすすめします。

プロジェクトチームを組成した後は、意思決定の階層を明確にしておくことも重要です。CIを反映したデザイン提案は、細部の色味や素材選定まで含めると議論が発散しやすく、関係者全員の合意を毎回取ろうとすると進行が滞ってしまいます。そのため、「様式や全体コンセプトなど戦略的な事項は経営層が承認する」「植栽の樹種選定や細部の仕上げなど実務的な事項は事務局(総務・施設管理部門)の裁量で決定する」といった形で、意思決定のレベルをあらかじめ切り分けておくと、プロジェクトの停滞を防ぎやすくなります。また、造園会社やデザイン会社からの提案を評価する際は、担当者の主観的な好みだけで判断せず、当初整理したCI要件との整合性を確認するためのチェックリストを用意しておくと、複数人での評価がぶれにくくなります。プロジェクトの節目ごと(基本計画確定時、実施設計確定時、施工中間確認時など)に経営層への報告機会を設けておくことで、完成間際になって想定外の指摘を受けるリスクも軽減できます。CIを反映した庭園デザインは、担当者の異動によって方針が揺らぐこともあるため、検討の経緯や決定理由を議事録や資料として残しておくことも、長期的な一貫性を保つうえで欠かせない実務です。さらに、CI改定のタイミングでは庭園デザインの見直しまで検討が及ばないことも多く、結果として数年後に庭園だけが古いブランドイメージのまま取り残されるケースも見られます。こうした事態を避けるためには、CI改定プロジェクトの検討範囲に、オフィス空間やWebサイトと並んで庭園・外構も含めるべきかどうかを、改定の初期段階で一度は議題に挙げておくことをおすすめします。仮に予算や優先度の関係で即座の改修が難しい場合でも、将来的な見直し候補として記録しておくことで、次の改修サイクルでの検討漏れを防げます。こうした記録は担当部門の引き継ぎ資料としても活用でき、数年後に担当者が変わった際にも、当初の検討経緯を踏まえたうえで議論を再開できるという実務上のメリットがあります。庭園という完成までに時間のかかるプロジェクトだからこそ、こうした地道な記録の積み重ねが、後々の意思決定の質を左右する重要な資産になります。

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